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病院でのピアノ演奏 — ロビーコンサート・緩和ケア・小児病棟の依頼方法

ensona編集部
病院でのピアノ演奏 — ロビーコンサート・緩和ケア・小児病棟の依頼方法

「病院のロビーで月例コンサートを企画したい」「緩和ケア病棟でお世話になった故人を偲んでピアノを贈りたい」「小児病棟のプレイルームで子どもたちにピアノを聴かせたい」「自分が演奏者として病院ボランティアに参加してみたい」——病院でのピアノ演奏は、依頼する立場・演奏する立場の双方にとって、老人ホームや介護施設とは異なる配慮が求められる場面です。

ご家族を看取られた方で「お世話になった病棟へピアノを贈りたい」という方は、本記事の「ご家族から、お世話になった病棟への演奏を贈る」のセクションに直接お進みください。演奏者として参加を検討している方は「演奏者として病院ボランティアに参加するには」のセクションを参照してください。

そこで、病院でのピアノ演奏を「ロビーコンサート」「緩和ケア病棟」「小児病棟」の3つに分け、それぞれの窓口・段取り、医療法と個人情報保護への配慮、感染対策、演奏者と案内役の2人組での進め方、遺族からの寄付演奏まで、病院ならではの段取りを整理しました。

ensona編集部が、病院のロビーコンサートに出演経験のあるピアニスト・緩和ケア病棟ボランティア経験者・病院広報担当者への聞き取りをもとにまとめています。

この記事の要点

  • 病院でのピアノ演奏は「ロビーコンサート」「緩和ケア病棟」「小児病棟」の3つに分かれ、窓口がそれぞれ違う。広報課・医療相談室・小児プレイルーム担当に直接相談する。
  • 老人ホームや介護施設より配慮事項が多い。医療法・医療広告ガイドライン(治療効果をうたわない)・個人情報保護法(要配慮個人情報)・感染対策の4点が共通の前提になる。
  • 報酬は無償ボランティアが主流で、交通費の実費のみという病院が大半。例外として、病院主催の周年記念コンサートなどは有償の依頼になることもある。
  • ベッドのそばでの演奏は「演奏者と案内役」の2人組で動くのが標準。患者の同意確認や退室の判断は案内役が担い、演奏者は演奏に集中する。
  • 遺族から、故人がお世話になった病棟への「寄付演奏」を奉納するという選択肢もある。打診から実施まで3〜6か月の段取りで進める。
恵良 響

この記事の監修者

恵良 響えら ひびき

4歳からピアノを始める。東京藝術大学音楽学部附属音楽高等学校卒業後、渡仏。パリ地方音楽院を経て、現在パリ国立高等音楽院(Conservatoire national supérieur de musique et de danse de Paris)第一課程在籍中。

病院でのピアノ演奏 — 3つの場面と窓口の違い

病院でのピアノ演奏 3つの場面と窓口

どの場面に当てはまるかで、最初に相談する窓口が変わります

→ 横にスクロールできます

場面窓口形式・時間主な配慮
ロビーコンサート広報課/地域医療連携室外来ロビーで月1〜2回、15〜30分のミニコンサート音量は控えめ・通行妨げない/医療広告ガイドラインの表現
緩和ケア病棟医療相談室(MSW)/チャプレン/ボランティア窓口ベッドのそばや病棟ラウンジで、1部屋10〜20分の少人数当日の体調で可否判断/演奏者と案内役の2人組/撮影は原則行わない
小児病棟・プレイルームプレイルーム担当/チャイルドライフスペシャリストプレイルーム・院内学級で、20〜30分の参加型感染対策が最も厳格/童謡・アニメ曲中心/子どもの集中時間に配慮

病院でのピアノ演奏には3つの場面があり、それぞれ依頼する窓口・対象になる患者・演奏の形式が違います。「病院で演奏ボランティアをしたい」「病院に演奏を依頼したい」と考えるとき、自分がどの場面にあたるかを最初に整理してください。

ロビーコンサート(広報・地域医療連携室)

病院の外来ロビー・正面ホール・カフェの併設エリアなどで行う、来院者やスタッフ向けの公開コンサートです。窓口は広報課または地域医療連携室で、月1〜2回の月例公演として運営している病院が多くあります。常設のグランドピアノを置いている大学病院や民間の総合病院での開催が中心で、形式はBGMやミニコンサートとして15〜30分ほどで行います。来院者の通行をさまたげず、待合の雰囲気をやわらげる役割です。

緩和ケア病棟(医療相談室・チャプレン経由)

緩和ケア病棟(ホスピス)の患者と家族に向けて、ベッドのそばや病棟のラウンジで行う少人数の演奏です。窓口は医療相談室(医療ソーシャルワーカー)・チャプレン(病院に所属する宗教者)・緩和ケアチームのボランティアコーディネーターが一般的です。患者の体調の変化が大きいため、その日に演奏してよいかを最終的に判断する形が標準で、1部屋10〜20分ほどの短い訪問になります。演奏者と案内役の2人組で動くのが基本です。

患者がご存命のうちに「最期に好きな曲を聴かせてあげたい」とご家族が希望される看取り期のご相談は、後述の「寄付演奏」とは別ルートで進めます。3〜6か月の準備は難しいため、医療相談室に電話で「看取り期で短期間でお願いできる演奏者を探している」と伝えると、院内に常駐しているボランティア演奏者の枠で対応してもらえることがあります。

小児病棟・小児プレイルーム

小児病棟のプレイルーム・院内学級・新生児集中治療室(NICU)の周辺などで行う、子どもと家族向けの演奏です。窓口はプレイルーム担当・チャイルドライフスペシャリスト・小児ボランティア窓口が中心です。免疫が下がっている患者が多く、感染対策の基準は3つの場面の中でいちばん厳しくなりやすいです。童謡・アニメの主題歌・短いポップスなど、子どもが楽しめる曲を中心に組み立てます。

入居系の老人ホームでの演奏は別記事で解説しています。

通所系介護施設のレク担当者向けの依頼は、別記事で扱います。

病院ならではの4つの配慮

病院ならではの4つの配慮

老人ホーム・介護施設にはない、医療機関固有のチェックポイント

1

医療法・医療広告ガイドライン

「治療効果がある」「症状がやわらぐ」など、効果効能を断定する表現は使わない。「演奏会を開催します」のような落ち着いた表現にする。(医療法第6条の5・医療広告ガイドライン)

2

個人情報保護(撮影・SNS)

患者の氏名・治療内容・顔写真は要配慮個人情報。ベッドのそばでの演奏は原則撮影しない。ロビーでも来院者の映り込みに注意。(個人情報保護法・要配慮個人情報)

3

感染対策

麻疹・風疹・水痘・流行性耳下腺炎の抗体検査、B型肝炎ワクチン、結核既往の確認、健康診断書、楽器消毒手順書。費用は基本的に演奏者の自己負担。(日本環境感染学会ガイドライン基準)

4

著作権の扱い

無償ボランティアは著作権法第38条1項の3要件で許諾不要のことが多い。有償出演や録画・配信、ジブリ・ディズニー楽曲は事前確認。(著作権法第38条1項)

老人ホームや介護施設との大きな違いとして、病院では医療機関ならではの法律・倫理・運営ルールへの配慮が求められます。代表的な4点を確認しておきましょう。

医療法・医療広告ガイドライン(治療効果をうたわない)

医療法第6条の5と医療広告ガイドラインでは、医療機関の広告について、うそや大げさな表現・体験談・ビフォーアフターなどの表現を禁止しています。ピアノ演奏そのものは医療行為ではありませんが、病院主催や院内開催のイベントとして広報するときに、「治療効果がある」「症状がやわらぐ」「不安が消える」「がんに効く」といった言い切りの効果を示す表現を使うと、医療広告のルールにふれるおそれがあります。

演奏会の告知・院内のチラシ・SNS投稿では、「演奏会を開催します」「ご来院の方にお楽しみいただけます」のような落ち着いた書き方にとどめ、治療を連想させる表現は避けてください。海外の研究データを引用する場合も、「研究で報告されている例があります」程度の控えめな書き方が安全です。

個人情報保護(撮影・SNSの扱い)

患者の氏名・部屋番号・治療内容・顔写真は、個人情報保護法でいう「要配慮個人情報」にあたります。演奏中や前後の撮影は、病院の許可と患者本人(または保護者・代諾権者)の書面での同意がない限り、SNS・個人ブログ・YouTubeなどへの投稿はできません。

ベッドのそばでの演奏は、原則として撮影しません。患者本人が同意しても、隣室や同じ病棟の他の患者・ご家族の映り込みを完全に防げないため、緩和ケア病棟・小児病棟・無菌病棟などでは病院ルールとして撮影を断る運用が一般的です。記録に残したい場合は事前に病院・患者・他患者全員の合意を取る別の手続きが必要になります。

ロビーコンサートでも、来院者の通る場面が映り込む撮影には注意が必要です。「来院者の顔が映らない構図」「病棟・病室の入り口が映らない」「スタッフの名札が読めない」など、撮影の前に病院の広報担当と確認しておきます。

感染対策(ワクチン・検査・楽器の消毒)

病院は感染管理が日常業務の中心で、外部から入る演奏ボランティアにも厳しい基準が当てはまります。一般的に求められる項目は、麻疹・風疹・水痘・流行性耳下腺炎の抗体検査の証明、B型肝炎ワクチンの接種歴、インフルエンザワクチンの年1回の接種、結核にかかった経歴の確認、健康診断書の提出などです。

新型コロナの流行以降は、事前の抗原検査・症状の申告書・マスク着用が当たり前になりました。緩和ケア病棟・小児病棟・移植病棟など免疫の下がった患者がいる病棟では、楽器の消毒手順書を提出する病院もあります。電子ピアノを持ち込む場合の消毒方法、共用のピアノの鍵盤を演奏の前後にどう拭くかまで、事前に病院の感染管理担当に確認してください。

健診・抗体検査・ワクチン接種の費用は、原則として演奏者本人の自己負担になります。病院がボランティア用の保険に加入してくれる例はありますが、健診費用は自己負担が一般的なので、応募前に病院ボランティア窓口で費用負担の方針を確認しておくと安心です。

著作権の扱い(JASRAC・選曲時の注意)

病院での生演奏は、著作権法第38条1項により「営利目的でない・聴衆から料金を取らない・演奏者に報酬を支払わない」の3つの要件をすべて満たす場合は、許諾不要で演奏できます。無償ボランティアによるロビーコンサートや病棟演奏は、3要件を満たすことが多いため、JASRACへの個別申請が不要な場合が大半です。

ただし、病院主催の周年記念コンサートのように演奏者へ報酬を支払う場合は3要件を満たさなくなるため、JASRACへの個別申請または病院側の包括契約が必要になります。また、ジブリ・ディズニーなど権利管理の厳しい楽曲を選曲する場合は、生演奏でも病院の音響担当・広報担当に事前確認してください。録画・配信を計画している場合は、生演奏とは別に複製権・公衆送信権の処理が必要になります。

依頼から本番までの流れ

病院での演奏は、打診から本番までおおむね3〜4か月の期間を見込んでおきます。B型肝炎ワクチンが未接種の場合は3回接種で半年ほどかかるため、状況によってはさらに長めに準備の時間を取る必要があります。健康診断や書類の準備に時間がかかるため、介護施設より長めに段取りを組むのが基本です。

本番3〜4か月前

病院の代表電話または問い合わせフォームから打診する。3つの場面のどこに当てはまるかを伝える。

本番2〜3か月前

担当窓口とのオンラインまたは対面の事前打ち合わせ。応募書類や誓約書の様式を受け取る。

本番1〜2か月前

健康診断・抗体検査・各種ワクチンの接種歴の証明書類を提出する。

本番1か月前

選曲と進行案を提出し、最終的な承認を受ける。院内のポスターやチラシは広報担当が作成する。

本番1〜2週間前

院内の見学・搬入経路の確認・リハーサル時間の調整。

本番当日

入館手続き・体温と抗原の検査・楽器の消毒・本番・片付け。

本番後

アンケートの提出(病院からの感想)・写真の使用承諾の確認。

演奏制限と演目設計

緩和ケア病棟のラウンジで患者と家族がピアノ演奏を聴いている様子

病院での演奏は、コンサートホールでの公演とは違う制限や演目の組み立てが求められます。

ピアノの屋根は開けない・BGM形式・音量

病院のロビーや病棟ラウンジでの演奏は、待合の方の会話や治療の進行をさまたげないことが最優先です。グランドピアノを使う場合も屋根(大屋根)は開けず、ハーフ位置か閉じた状態で演奏します。音量はコンサートの3〜5割ほどを目安に、会話の声を少し上回る程度に抑えます。来院者の通行をさまたげない配置や動線も、病院側と事前に確認します。

病棟ごとの違いに合わせた選曲

病棟ごとに患者の状態や年齢層、体調が違うため、選曲も病棟ごとの違いに合わせて組み立てます。

病棟・場所おすすめの選曲
一般外来ロビークラシックの小品(カノン・愛の挨拶・月の光)、ジブリ映画の音楽
緩和ケア病棟患者やご家族のリクエスト中心。静かな曲、思い出の曲
小児病棟・プレイルーム童謡(ふるさと・赤とんぼ)、アニメ主題歌、ディズニー作品
呼吸器病棟息苦しさを連想させない静かな曲。低音の連続は避ける
精神科病棟担当医や看護師との事前の話し合いで決める。歌詞の強い曲は避ける

緩和ケア病棟ではご家族から「父が好きだった〇〇を弾いてほしい」という個別のリクエストが入ることもあります。事前に楽譜を用意するか、本人の体調を見ながらその場でアレンジできる演奏者の方が向きます。

1曲の長さ・場の主役にならない

ベッドのそばでの演奏は1曲3〜5分、訪室の時間は10〜20分が目安です。ロビーコンサートも全体で30分以内、1曲は5分前後に収めます。「演奏者が主役にならず、場の空気を整える役割」と位置づけるのが、病院での演奏の基本の姿勢です。患者や来院者の反応に合わせて音量を下げる、曲を短く切る、ときには演奏を途中で止めるといった柔らかい対応が求められます。

演奏者と案内役の2人組での進め方

緩和ケア病棟や小児病棟でのベッドのそばでの演奏は、演奏者と案内役(ボランティアスタッフ)の2人組で訪室するのが標準です。海外の主要なプログラムでも採用されているやり方です。

役割分担

役割担当する内容
案内役(ボランティアスタッフ)病棟スタッフとの連絡、患者への声かけ、演奏してよいかの同意の確認、退室の判断、医療情報を演奏者に伝えない調整
演奏者演奏に集中、選曲のその場での判断、患者やご家族への簡単な挨拶

患者から「もっと聴きたい」「もう疲れた」「今日はやめておきたい」といった反応があったとき、案内役が間を置かず退室や継続を判断します。演奏者が一人で訪室すると「気を使って弾き続けてしまう」「患者の体調の変化に気づけない」といったことが起こりやすいため、必ず2人組で動くのが基本です。

案内役の選び方

病院にすでに登録されているボランティアスタッフが案内役を担うのが一般的です。病院に案内役の文化がない場合は、医療ソーシャルワーカー・看護師・チャプレンが一緒に動くこともあります。演奏者個人で「友人を連れて行く」のは病院の運営ルール上、認められないことが多いため、案内役は病院側で手配してもらいます。

演奏者の心構え

緩和ケア病棟・小児病棟でのベッドのそばでの演奏は、コンサートホールでの演奏とは違う心の準備が求められます。患者が涙ぐむ・呼吸が変化する・ご家族が崩れるといった反応が起きたとき、演奏者が動揺せず、また「気を遣って弾き続けて」患者を消耗させないことが大切です。

患者の医療情報(病名・余命・治療方針)は、案内役と病院スタッフの間でとどめ、演奏者には伝えないルールが標準です。事前情報がないからこそ、演奏者は目の前の患者・ご家族の表情だけを見て演奏できます。演奏中の続行・短縮・中断の判断は案内役に委ねる、という役割分担を本番前に確認しておくと、演奏者も落ち着いて取り組めます。

演奏者の応募を待つだけでなく、病院や病棟の側からピアニストを探したい方へ。なら慰問演奏や施設訪問の経験があるピアニストを条件で絞り込み、本人に直接相談できます。

登録・利用はすべて無料です。

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ご家族から、お世話になった病棟への演奏を贈る

故人が緩和ケア病棟・がん病棟・小児病棟・透析病棟などでお世話になった場合、ご家族から「お世話になった感謝」として病棟に演奏を贈る形があります。神社への奉納のような格式ばったものではなく、「妻が好きだった曲を、お世話になった看護師さんたちにも聴いてもらえたら」というご家族の自然な気持ちから始まる催しです。

この形の特徴

  • 香典返しではなく「お世話になった感謝」として位置づけられる。
  • ご家族のお名前を出さず匿名で行うことが多いが、実名で関係者にご挨拶したい場合も選べる。
  • 演奏者への謝礼はご家族が負担し、病院は受け取らない。
  • 病棟スタッフ・他の患者・他のご家族への配慮を含めて段取りを組む。

病院に最初に電話するときの文例

「企画」「打診」といった硬い言葉を使わなくても大丈夫です。素直に伝えるのが一番自然です。

「妻(夫・父・母)が、昨年〇月までそちらの緩和ケア病棟でお世話になりました〇〇と申します。妻は生前ピアノを弾いており、お世話になった皆さまへの感謝の気持ちでピアノを贈れたらと考えています。どなたにご相談すればよろしいでしょうか」

代表電話に上記のように伝えれば、医療相談室や地域連携室につないでもらえます。最初の電話は5分もかかりません。気持ちが落ち着かないときは、信頼できるご家族や友人に同席してもらってかけるのも一つの形です。

段取り

打診から実施までは3〜6か月が一つの目安です。ご家族が体調・気持ちに余裕を持って進められる期間をご自身で決めてください。

  1. 病院の医療相談室や地域連携室に上記の文例で相談する。
  2. 医療相談室が間に入って、現在の病棟責任医師・看護師長・緩和ケアチームに病棟側の合意を取る。ご家族から直接、当時の主治医に連絡する必要はありません。
  3. 演奏者を選ぶ(故人の知人ピアニストにお願いする、音楽事務所・ensonaのようなサービスを通じて探す、病院の常設ボランティア演奏者から紹介してもらうなど)。
  4. 演奏者の感染対策・誓約書・健康診断の手続きを進める(病院と演奏者で進めます)。
  5. 当日のリハーサルと本番(病棟のラウンジ、または病棟の外のロビー)。

他の患者・他のご家族への配慮

ご家族が最も気にされるのが「私の演奏が、まだ闘病中の方を辛くさせないか」「他のご家族の方が『うちのときはなかった』と感じないか」という不安です。これは病棟スタッフが一番経験を持っており、以下の点を一緒に整えていきます。

  • 時間帯と場所の選び方: 他の患者の食事・治療の時間帯を避け、病棟ラウンジや病棟外のロビーを選ぶ。
  • 選曲の重なりを調整: 故人の闘病中によく流れていた曲が、他の患者・ご家族の体験と重なる場合は、別の曲に差し替える。
  • アナウンスの調整: 「特定のご家族からの寄付による演奏会」と説明するか、「病棟へのささやかな演奏」とだけ案内するかを病棟スタッフと決める。
  • ご家族の出席の形: ご家族自身が演奏会場に立ち会うかどうかは自由。立ち会う場合も後方の席で静かに聴いていただく形が一般的。

当日、ご家族はどう過ごすか

演奏会場にいらっしゃるかどうかは、ご家族の気分次第で構いません。立ち会いを選ばれる場合、以下のような形が一般的です。

  • 立っている場所: 後方の席または会場の隅で、他の患者・ご家族と同じ位置で静かに聴く。
  • 滞在時間: 演奏前後の30分から1時間程度。気持ちが落ち着かない場合は、演奏が始まる前に席を外しても構わない。
  • 涙が出ても大丈夫: 病棟スタッフは涙を流すご家族を何度も見守ってきています。「泣いてはいけない」と気を張らなくて大丈夫です。
  • ご挨拶: 病棟スタッフへの感謝のご挨拶は、演奏前または演奏後の落ち着いたタイミングに、簡潔で構いません。

演奏者選びの考え方

故人の知人にピアノを弾く方がいらっしゃる場合と、第三者の演奏者を探す場合で、どちらが「正解」ということはありません。それぞれに向き不向きがあります。

故人の知人ピアニスト第三者の演奏者(音楽事務所・ensonaなど)
雰囲気思い出を共有する温かさ落ち着いた距離感、新しい区切り
お礼の伝え方御礼の額・断られたときの対応に気遣いが必要料金体系が明示されているので相談しやすい
病院手続き感染対策・健康診断は知人ピアニスト側に依頼慰問経験のある演奏者なら手続きの目安がついている
向く例故人と演奏者の関係が深いしがらみのない区切りをつけたい、知人ピアニストがいない

ご家族の気持ちと故人との関係性で選んでください。

故人を偲びつつ、いまも病棟にいらっしゃる患者の方々への配慮(音量・時間帯・選曲)を大切にするのが、この形の本質です。

報酬と費用の実情・例外的な有償公演

病院でのピアノ演奏は、無償ボランティアが主流です。交通費の実費が支払われる病院もありますが、演奏者への謝金が出る運用は限られています。

形式報酬備考
ロビーコンサート(月例ボランティア)無償(交通費の実費まで)演奏者の経験を積むことが主な目的
緩和ケア病棟・小児病棟ボランティア無償病院ボランティア制度の枠の中
ご家族からの演奏(病棟への奉納)ご家族から演奏者へ直接支払う(病院は経由しない)演奏者1名・1時間程度で3〜10万円が目安。リハ込み・複数曲なら5〜15万円
病院主催の周年記念コンサート有償(出演料あり)例外。10〜30万円台が目安
院長就任記念・市民公開講座の余興有償例外。5〜20万円台が目安

無償ボランティアであっても、演奏者にとって病院での経験は、活動の信頼性を支える積み重ねになります。経験を積みたい若手の演奏家や音大生にとって、病院でのボランティアは大切な実践の場の一つです。

演奏者として病院ボランティアに参加するには

演奏者の側から「病院でボランティア演奏をしたい」と検討している方に向けた手順です。応募方法・準備期間・実績化の考え方を整理します。

応募ルートの選び方

3つのルートが代表的です。それぞれ向き不向きがあります。

ルート向く例注意点
病院ボランティア窓口に直接応募地元の特定病院で長く活動したい個人受け入れ実績の少ない病院だと事務負担が大きく敬遠されがち
慰問演奏NPOに登録(NPOパフォーマンスバンク・OnPalなど)体系的に研修・案件を回したいNPO経由のため一定の手数料・運営費が発生
演奏者と依頼者をつなぐサービス(ensonaなど)に登録病院・施設・結婚式など案件種別を選びたい立ち上げ初期は案件数・対応エリアに変動あり

「まず1施設で経験を積みたい」なら直接応募、「複数の現場を経験したい」ならNPOまたは演奏者検索サービスへの登録が向きます。ensonaのようなサービスは演奏者と依頼者が直接やりとりできる点で、NPO経由とは異なる動き方になります。

準備期間と書類

応募から初演奏まで、3〜6か月の準備期間が標準です。下記の書類・手続きが必要になります。

  • 健康診断書(半年以内)
  • 抗体検査結果(麻疹・風疹・水痘・流行性耳下腺炎)
  • B型肝炎ワクチン接種歴(未接種の場合は3回接種で半年)
  • インフルエンザワクチン年次接種
  • ボランティア誓約書(守秘義務・私見を述べない・医療情報の非提供)
  • 演奏動画・略歴の提出(応募審査用)

健診・抗体検査・ワクチン接種の費用は、原則として演奏者本人の自己負担です。応募前に必要書類と費用負担の方針を病院ボランティア窓口で確認しておくと安心です。

経験の実績化

「病院でのボランティア経験は、SNSで発信できないなら何の実績になるのか」と感じる方もいます。実績化の正しい形は以下です。

  • プロフィール記載: 「〇〇病院ロビーコンサート 月例出演(〇〇年〜)」のように団体名・期間を書面に記載できる
  • 推薦状・感謝状: 一定期間の活動後、病院から推薦状・感謝状を発行してもらえる場合がある(病院ごとの規定による)
  • 病院公式広報への協力: 病院の機関誌・院内掲示物に「外部協力者」として掲載される形(病院の許可がある場合のみ)

SNSや自身のYouTubeでの直接発信は控える代わりに、上記の正規ルートで実績を残す形が標準です。

演奏中のメンタル準備

緩和ケア病棟・小児病棟での演奏は、コンサートホールとは違う心の構えが求められます。前述の「演奏者の心構え」セクションを必ず確認してから応募してください。患者の医療情報は意図的に知らないでよい・演奏中の続行や中断の判断は案内役に委ねる、という役割分担を理解しておくと、安心して取り組めます。

院内の音楽療法士との関わり方

大規模な大学病院やがん専門病院では、院内に音楽療法士(日本音楽療法学会認定)が在籍している場合があります。音楽療法士は治療を目的として、個人または小さなグループに音楽を用いた関わりを行う専門職で、ボランティア演奏とは目的も形式も違います。

院内に音楽療法士がいる場合、演奏ボランティアを企画するときには、スケジュールが重ならないようにし、対象になる患者や場所を分けて協力するのが望ましい形です。「音楽療法士は治療を目的とした関わり、ボランティア演奏は楽しみのひととき」という役割分担を、院内のスタッフ・演奏者・依頼者の全員で共有しておくと、混乱を避けられます。

医療広告ガイドラインの観点からも、ボランティア演奏を「音楽療法」と呼ぶのは誤解を招くため避けてください。「演奏会」「ベッドのそばでの音楽」「ロビーでのピアノ」など、落ち着いた言葉を使うのが安全です。

病院側が演奏者を探すルート

病院ボランティア窓口への応募を待つだけでなく、病院や病棟の側から自分たちでピアニストを探したい場面もあります。代表的なルートは次のとおりです。

  • 自治体のボランティアセンターや社会福祉協議会
  • 地域の音楽事務所や楽器派遣会社
  • 近隣の音楽大学のキャリア支援室や社会連携室
  • 慰問演奏の専門NPO(NPOパフォーマンスバンク、OnPalなど)— 組織が間に入って研修・運営事務を進める形
  • 演奏者と依頼者をつなぐサービス(ensonaなど)— 演奏者本人と直接やりとりできる形

NPOは組織側で研修・案件管理を担う一方、ensonaのようなサービスは演奏者本人とのやりとりが軸になります。選曲・条件交渉を本人と直接行いたい場合は後者、運営事務を組織側に任せたい場合は前者が向きます。

ensonaは、ピアニストと依頼者をつなぐ場として運営しているサービスです。登録ピアニストのプロフィール・演奏動画・対応する場面(病院・施設訪問・結婚式・企業など)・希望料金が公開されています。慰問演奏や病院での演奏経験が豊富なピアニストを条件で絞り込んで、直接メッセージを送れる仕組みです。仲介手数料は取らず、ピアニスト本人が提示する料金がそのまま依頼者の支払う金額の中心になります。依頼者・ピアニストの双方から利用料は取らず、運営は広告収入で支える方針です。

項目ensonaでの扱い
利用料金(依頼者)無料
仲介手数料取らない
演奏者の検索プロフィール・演奏動画・対応する場面・希望料金で絞り込み
病院・慰問演奏での絞り込み「病院」「慰問演奏」の経験ありで絞り込めます
寄付演奏の相談遺族からピアニスト本人に直接相談できます
サービスの状態立ち上げ間もないサービスのため、登録ピアニスト数や対応エリアは時期によって変わります
運営の収入依頼者・ピアニストの双方から利用料は取らず、広告収入で運営を支える方針

「病院ボランティアで演奏したいピアニストを探したい」「故人を偲ぶ寄付演奏を相談できるピアニストに直接連絡したい」「周年記念コンサートで病院での演奏経験があるプロを呼びたい」と感じたら、選択肢の一つとして検討してみてください。対象のエリアに登録ピアニストがいない場合は、上で挙げた他のルートとあわせて使うのが現実的です。

まとめ

病院でのピアノ演奏は、老人ホームや介護施設とは別の運営の作法を持つ場面です。ロビーコンサート(広報・地域医療連携室)、緩和ケア病棟(医療相談室・チャプレン)、小児病棟(プレイルーム担当)の3つの場面で窓口が違うため、まず自分が関わりたい場面を確認してから依頼を進めてください。

医療法と医療広告ガイドライン(治療効果をうたわない)、個人情報保護法(要配慮個人情報の扱い)、感染対策(ワクチン・抗体検査・楽器の消毒)、著作権の扱い(生演奏は38条1項の3要件で許諾不要のことが多いが選曲時は要確認)の4点が、病院での演奏に共通する大きな配慮のポイントです。打診から本番まで3〜4か月かかるのが目安です。

演奏は無償ボランティアが主流ですが、寄付演奏や病院主催の周年コンサートなど、例外として有償の依頼もあります。ベッドのそばでは演奏者と案内役の2人組で動き、患者の同意の確認や退室の判断は案内役が担うのが安全なやり方です。

病院側や遺族側から演奏者を探すときは、自治体のボランティアセンター・音楽事務所・音楽大学のキャリア支援・専門NPO・ensonaのようなピアニストを探せるサービスなど、複数のルートを組み合わせて使うのが現実的です。「演奏会」「楽しみのひととき」と落ち着いて位置づけ、治療効果をうたわない姿勢で取り組むのが、病院・患者・演奏者のいずれにとっても安心できる進め方です。

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よくある質問

Q.

病院にピアノ演奏を依頼するときの最初の窓口はどこですか?

A.

病院の3つの場面で窓口が変わります。ロビーや外来ホールでのコンサートは広報課や地域医療連携室、緩和ケア病棟は医療相談室(医療ソーシャルワーカー)またはチャプレン(病院に所属する宗教者)、小児病棟は院内のプレイルーム担当・チャイルドライフスペシャリスト・小児ボランティア窓口が一般的です。病院ごとに名称が違うため、まず代表電話で「ピアノ演奏ボランティアの相談をしたい」と伝え、適切な部署につないでもらうのが確実です。

Q.

病院での演奏は報酬が出ますか?無償が前提ですか?

A.

ロビーコンサート・緩和ケア病棟・小児病棟ボランティアは無償が原則です。交通費の実費支給がある病院もありますが、出演料を支払う運用は限られています。例外として、病院主催の周年記念コンサート・市民公開講座の余興・院長就任記念の特別演奏会など、病院側が予算を組んで開催する場合は有償依頼になることがあります。遺族からの寄付演奏は故人を偲ぶ演奏として無償で行うのが一般的で、病院から遺族への謝礼や香典返しの形は取りません。

Q.

病院での演奏に求められる感染対策はどこまで必要ですか?

A.

病院・病棟によって基準が異なりますが、一般的にはワクチン接種歴の証明(インフルエンザ・麻疹風疹・水痘・B型肝炎など)、健康診断書の提出、結核既往の確認が標準です。新型コロナ流行以降は事前の抗原検査・症状申告書・マスク着用が常時化されています。緩和ケア病棟・小児病棟・無菌病棟(移植病棟)など免疫の低下した患者がいる場では、楽器消毒の手順書を提出する病院も増えました。事前打ち合わせの段階で、病院の感染管理担当に必要書類を確認してください。

Q.

演奏中の撮影やSNS投稿は可能ですか?

A.

病院や病棟内で患者・スタッフ・院内設備が写る撮影は、原則として病院の事前許可が必要です。許可が出ても、患者の顔・氏名・部屋番号・治療内容などはすべて要配慮個人情報にあたるため、病院の許可と患者本人の同意がない限り、SNSや個人サイトでの投稿はできません。病院名・病棟名を出す場合も、医療法・医療広告ガイドラインとの兼ね合いがあるため、事前に書面で承諾を取ることが安全です。

Q.

緩和ケア病棟(ホスピス)でのピアノ演奏は誰に頼めばいいですか?

A.

緩和ケア病棟は院内の医療相談室(医療ソーシャルワーカー)、チャプレン(病院に所属する宗教者)、緩和ケアチームのボランティアコーディネーターが窓口になります。患者一人ひとりの体調が日々変わるため、当日に演奏してよいかを最終的に判断する形が一般的です。ベッドのそばでの演奏は1部屋10〜20分ほどの短い時間で、患者本人とご家族が静かに耳を傾けられるよう、演奏者と案内役(ボランティアスタッフ)の2人組で訪問するのが標準的です。

Q.

故人がお世話になった病棟への寄付演奏は依頼できますか?

A.

可能です。故人が緩和ケア病棟・がん病棟・小児病棟で過ごした際にお世話になった病院に、遺族から「故人を偲ぶ演奏」として奉納するスタイルがあります。匿名で実施する希望が多く、香典返しではなく「お世話になった感謝」として位置づけられます。病院の医療相談室・地域連携室に「遺族から寄付演奏のご相談」と伝え、病棟スタッフ・他の患者・他の遺族への配慮を含めて段取りを組んでもらうのが基本です。実施までは打診から3〜6か月程度かかります。

恵良 響

この記事の監修者

恵良 響えら ひびき

4歳からピアノを始める。東京藝術大学音楽学部附属音楽高等学校卒業後、渡仏。パリ地方音楽院を経て、現在パリ国立高等音楽院(Conservatoire national supérieur de musique et de danse de Paris)第一課程在籍中。

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